Tohoku University, International Center for Synchrotron Radiation Innovation Smart (SRIS)

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【ニュースリリース】金属酸化物の酸素キャリア特性向上の要因をナノテラスでの実験により解明

2025.1.22

 概要 

 官民地域パートナーシップにより整備・運用される放射光施設NanoTerasuには、科学技術の進展と国際競争力強化に加え、NanoTerasuを核とするリサーチコンプレックス形成の加速が期待されています。そこで東北大学では、NanoTerasuに隣接するサイエンスパーク(4万㎡)内に、放射光科学の研究開発に係る研究拠点の設置を進めているところです。
 国立大学法人東北大学と国立大学法人東京大学は、放射光科学の研究における連携協定の下、共同でNanoTerasuを利用した研究開発を進めて参りました。今回、東北大学国際放射光イノベーション・スマート研究センターと東京大学物性研究所は共同で、東北大学材料科学高等研究所において新規に開発された材料についてその特性の起源を、2024年4月に利用が開始されたNanoTerasu BL07Uでの軟X線吸収分光を利活用することで解明しました。
 ケミカルループ法は、金属酸化物の格子酸素を用いて酸化反応を行う手法です。反応場を分離することができるため、平衡に縛られず高い反応転化率を実現することのできる手法です。ケミカルループ反応を低温化することでプロセス全体から排出されるCO2の量を減らすことが可能であることが、これまでにシミュレーションで示されていました。しかし、ケミカルループの低温化には、低温で高い反応性を持つ金属酸化物(酸素キャリア)が必要ですが、そのような材料はこれまでにありませんでした。
 東北大学国際放射光イノベーション・スマート研究センターの横哲准教授と西堀麻衣子教授、東北大学材料科学高等研究所(WPI-AIMR)の阿尻雅文教授、東京大学物性研究所の原田 慈久教授らの共同研究グループは、新規酸素キャリアの開発を行い、低温で高活性な酸素キャリア材料を流通式超臨界水熱合成法(注1)により合成することを可能にしました。しかし、低温で高い活性が得られる要因については、粒径やMnの添加量だけでは説明がつかず、その起源は不明でした。本研究では、NanoTerasuを用いた軟X線吸収分光により、この材料の特性を詳細に解析しました。その結果、低温高活性材料の起源が、Mnが2価の状態でCeO2にドープされた化学状態にあることを突き止めました。このような化学状態でドープされたCeO2系材料はこれまでに報告例がなく、酸素キャリア材料の設計に新たな可能性をもたらす画期的な発見です。
 本成果は、低温で高い活性を示す酸素キャリアの特性の起源を解明したもので、今後の酸素キャリアの高性能化につながる成果です。低温で利用可能な酸素キャリアが得られれば、従来800 ℃以上で行われていたケミカルループ反応を大幅に低温化し、これにより、CO2排出量の大幅削減と水素生成を実現する革新的な化学プロセスの開発が加速することが期待されます。
 本研究は2024年12 月13 日(米国時間)に米国化学会発行の学術誌Chemistry of Materialsに受理されました。 

 

 詳細な説明 

<研究の背景>
 ケミカルループ法は、金属酸化物の格子酸素を用いて酸化反応を行う手法です。反応場を分離することができるため、平衡に縛られず高い反応転化率を実現することのできる手法です。ケミカルループ反応を低温化することでプロセス全体から排出されるCO2の量を減らすことが可能であることが、これまでにシミュレーションで示されていました。しかし、ケミカルループの低温化には、低温で高い反応性を持つ金属酸化物(酸素キャリア)が必要ですが、そのような材料はこれまでにありませんでした。
   
<今回の取り組み>
 本研究では、東北大学国際放射光イノベーション・スマート研究センターと東京大学物性研究所の連携により、ナノテラスにおける軟X線分光の高度化と材料科学への利活用を促進しました。
 流通式超臨界水熱合成法(図1)による有機修飾金属酸化物ナノ粒子の合成について、金属ドープに取り組み、粒径約3nmの、Mnをドープした超微細CeO2粒子(図2)の開発を行いました。
図1 超臨界水熱合成の装置
 
図2 MnドープCeO2 超微細粒子
 
 
 

 この手法により得られた材料は300℃以下程度の低温領域でも、酸素の活性が高く酸化還元反応が容易に起こるということが明らかとなりました。しかし、その特性については粒径やMnのドープ量などでは説明できないことが分かりました。これに対してナノテラスのBL07U(図3)で軟X線吸収分光を行うことによって、高い活性(酸素貯蔵放出能)が見られたナノ粒子については、ドープされたMnの化学状態が2価となっている特殊な状態であることを明らかにしました(図4)。Mnが2価で存在することにより、周囲の酸素が脱離しやすくなり、高い酸素貯蔵放出能につながったと考えられます。
 
図3 ナノテラスBL07Uの装置
図4 MnドープCeO2におけるMnの化学状態(ナノテラスBL07Uで測定)
 
<今後の展開>
 軟X線分光は材料の化学状態の微細な変化を捉えることが可能なため、これまでプロセス―構造―物性相関が不明であったような系においてもその構造的特徴を詳細に明らかにすることで、プロセス開発および材料開発を促進することが期待されます。本研究で得られた酸素キャリア材料については、今後さらに研究を進めることで、これまで不可能であった低温ケミカルループ反応プロセスを実現し、CO2排出量を削減しつつ水素生成を行うプロセスの開発などへの展開が期待されます。
 
 

 謝辞 

 本研究の一部は科学研究費補助金(JP16H06367, JP20K20548, and JP21H05010)、  NEDO (JPNP18016)、  JST (JPMJMI17E4、 JPMJCR16P3)、文部科学省プロセスサイエンスプロジェクト(JPMXP0219192801)の支援を受けて行いました。
放射光実験はナノテラスBL07Uで行いました。
「本論文は『東北大学2024年度オープンアクセス推進のためのAPC支援事業』
によりOpen Accessとなっています(DOI: 10.1021/acs.chemmater.4c03107)」。

 用語説明 

注1.    流通式超臨界水熱合成法:東北大学発のナノ粒子合成技術(阿尻雅文教授が1992年に提案)。超臨界水を反応場とした、金属酸化物ナノ粒子の大量合成法。

 論文情報 

タイトル:High oxygen storage capacity of ultrasmall Mn-doped CeO2 nanoparticles via enhanced local distortion and Mn(II) lattice substitution  
著者:Chunli Han*, Akira Yoko*, Ardiansyah Taufik, Satoshi Ohara, Maiko Nishibori, Kakeru Ninomiya, Hisao Kiuchi, Yoshihisa Harada, and Tadafumi Adschiri 
Chemistry of Materials
DOI: 10.1021/acs.chemmater.4c03107

*責任著者
東北大学国際放射光イノベーション・スマート研究センター
 准教授 横 哲
東北大学国際放射光イノベーション・スマート研究センター
 教授 西堀 麻衣子
東京大学物性研究所
東北大学国際放射光イノベーション・スマート研究センター
 教授 原田 慈久
東北大学材料科学高等研究所(WPI-AIMR)
 教授 阿尻 雅文
 

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