Tohoku University, International Center for Synchrotron Radiation Innovation Smart (SRIS)

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研究成果・プレスリリース

【プレスリリース】安価な顔料で高速・高効率・高耐久なCO₂→CO変換を実現 ~温室効果ガスの削減と有効活用に繋がることを期待~

2025.4.08

 発表のポイント 

  • 安価な顔料の一種であるコバルトフタロシアニン(CoPc)を用いて世界最高レベルの二酸化炭素(CO2)から一酸化炭素(CO)への変換効率を達成しました。
  • 高電流密度(>1A/cm2)での高速電解が可能で140時間以上の耐久性を確認しました。
  • 電極上で顔料を「直接結晶化」させ、プロセス時間の短縮と触媒性能向上の両立が可能となりました。
 

 概要 

 近年、気候変動対策として温室効果のあるCO2を回収し、COなどの有用な炭化水素化合物に変換する技術が注目されています。

 東北大学材料科学高等研究所(WPI-AIMR)の刘騰義(Liu Tengyi)特任助教、藪浩教授(主任研究者、同研究所水素科学GXオープンイノベーションセンター副センター長)、ジャン ディ(Di Zhang)助教、李昊(Hao Li)教授(主任研究者)らの研究グループは、金属錯体で安価な顔料の一種であるコバルトフタロシアニン(CoPc)をガス拡散電極上に直接結晶化させることにより、省プロセスでCO2電解用の電極を作製する手法と、1 A/cm2以上の高速電解条件かつ90%以上効率で合成燃料の原料となるCOをCO2から得る手法を確立し、併せて140時間以上の耐久性も実現しました(図1)。

 本研究で開発したCO2電解技術は、安価な顔料触媒を用いて低コストかつ高効率にCO2から合成燃料の中間体であるCOを合成できるプロセス開発につながり、次世代のCO2有効活用(CO2 Capture and Utilization:CCU)技術として課題解決への貢献が期待されます。
本成果は、現地時間の4月4日に科学誌Advanced Scienceのオンライン速報版に掲載されました。
 
 なお本成果は、東北大学大学院環境科学研究科の轟直人准教授、東北大学国際放射光イノベーション・スマート研究センター(SRIS)の小野新平教授、吉田純也准教授、北海道大学電子科学研究所の松尾保孝教授、およびAZUL Energy株式会社(仙台市、伊藤晃寿社長)らのグループとの共同研究によるものです。
 
図1. 金属フタロシアニン結晶修飾ガス拡散電極作製方法とコバルトフタロシアニン(CoPc)結晶を用いた場合の特徴と性能。
 

 詳細な説明 

【研究の背景】
 近年、気候変動対策として温室効果のあるCO2を回収し、有用な炭化水素化合物に変換するCO2有効活用(Carbon dioxide Capture and Utilization: CCU)技術が注目されています。中でもCO2→CO変換は、得られたCOをグリーン水素と反応させることにより炭化水素を合成できることから、CO2を原料にした燃料合成における重要なステップです。そのため化学的に安定なCO2を反応性が高いCOに高効率に変換する技術が求められています。

 これまで報告されてきた様々な手法の中でも、CO2電解還元反応は常温・常圧の温和な条件で進行するCO2の資源化技術として期待されています。しかし、CO2電解還元反応によりCO2→COへの変換を高効率に行うためには、CO2→CO反応の選択性が高い触媒が必要であり、これまで金や銀などの貴金属や、銅などの遷移金属ナノ粒子が、CO2変換のための電気化学触媒として用いられてきました。これらの触媒は、主に炭素からなるガス拡散電極状にバインダーと担持された触媒電極の形で使用されますが、コストが高く、選択性が不十分であるなどの課題がありました。

 一方、これまで東北大学藪研究室では、金属錯体であり青色顔料の一種である金属フタロシアニン系の材料を、炭素材料上に分子吸着させる手法や(参考文献1)、直接結晶化させるプロセス(参考文献2)によって触媒電極を作製し、燃料電池や水電解など様々な電気化学反応の電極として検討を行ってきました。その結果、触媒の分子構造や中心金属、および電極への担持方法を変えることにより、高い反応選択性や高効率な物質変換を実現できることを見出しています。そこでそれらの知見を基に、CO2電解還元反応へ応用することを考えました。
 
 
【今回の取り組み】
 本研究では無金属フタロシアニン(H2Pc)、鉄フタロシアニン(FePc)、コバルトフタロシアニン(CoPc)、ニッケルフタロシアニン(NiPc)、銅フタロシアニン(CuPc)の溶液を調製し、ガス拡散電極上にスプレー塗布することにより、フタロシアニン類の結晶をガス拡散電極上に直接形成しました。本プロセスによりバインダーを用いず、直接触媒を電極上に固定化することが可能であるだけでなく、従来の導電炭素やバインダーと混合して塗布・乾燥させた後、熱処理等を必要とする電極触媒担持プロセスに比べ、大幅な時間短縮(15分程度)が可能となりました。

 本ガス拡散電極を正極としてアルカリ電解質中でCO2電解還元反応を行ったところ、CoPcが最も効率的にCO2→COへの変換が可能であること、CuPcの場合はメタン(CH4)やエチレン(C2H4)が合成されることを見出しました。さらに、CoPcを用いた場合、これまで検討されてきたCoPc系の例では、そのほとんどが実用には不十分な0.5 A/cm2以下の電流密度でしか性能が得られていないのに対し、実用的な1.034 A/cm2という高い電流密度においても>90 %の高いファラデー効率(FE)(注1)でCO2→COへの変換ができることが明らかとなりました(図2)。このことは、作製した電極が金属錯体触媒の中で最高レベルのCO2→CO変換能を持つことを示しています。さらに、150 mA/cm2でCO2電解反応を行ったところ、143時間に渡って性能が維持でき、従来の触媒では100時間程度であった耐久性に関しても優位性が確認されました(図3)。

 このような高い性能を示す理由を探るために、3 GeV高輝度放射光施設NanoTerasu(ナノテラス)(注2)のBL08Wにおいて、放射光による構造解析と理論計算を行ったところ、結晶化することにより分子が密にパッキングされ、表面への電子移動が効率的に起きていることが示唆されました。この結果は、CO2電解還元反応における金属錯体触媒電極作製において、直接結晶化が有効であるという指針を示すものです。
 
図2.CoPc結晶修飾ガス拡散電極と既報とのCO2→CO変換性能比較。
 
 

図3.CoPc結晶修飾ガス拡散電極の耐久性評価結果。
 
 
【今後の展開】
 本研究で開発した金属錯体直接結晶化によるガス拡散電極作製法とCO2電解技術は、安価な顔料触媒を用いてCO2から合成燃料の中間体であるCOを高効率で合成できるプロセス開発に繋がり、合成燃料のボトルネックの一つであるCO2の資源化に関わるエネルギー効率の向上とコスト削減に貢献することで、次世代のCCUに繋がる技術として期待されます。
 

 参考文献 

  1. H. Yabu*, K. Nakamura, Y. Matsuo, Y. Umejima, H. Matsuyama, J. Nakamura and K. Ito“Pyrolysis-free Oxygen Reduction Reaction (ORR) Electrocatalysts Composed of Unimolecular Layer Metal Azaphthalocyanines Adsorbed onto Carbon Materials”ACS Applied Energy Materials, 4(12), 14380-14389 (2021).
  2. K. Ishibashi, T. Liu, Y. Ishizaki, S. Nagano, J. Yoshida, S. Ono, Y. Takahashi, A. Kumatani*, H. Yabu*, “Crystalline Formation Enhances Hydrogen Evolution Reaction Property of Copper Azaphthalocyanine on Carbon Electrodes”ACS Applied Energy Materials, 7(22), 10466-10473 (2024).
     

 謝辞 

 本研究の一部は日本学術振興会科学研究費(JP23H00301, JP23K13703, JP24K17741, JP24K23068)、文部科学省マテリアル先端リサーチインフラ(ARIM) (No. JPMXP1223HK0074)、および科学技術振興機構未来社会創造事業(JPMJMI22I5)などの支援を受けて行われました。


 用語説明 

(注1)ファラデー効率(FE)
電気化学反応において、全電流に対する生成物に寄与した部分電流の割合を示す。

(注2)3GeV 高輝度放射光施設NanoTerasu(ナノテラス)
東北大学青葉山新キャンパス内にある国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構(QST)と一般財団法人光科学イノベーションセンター(PhoSIC)を代表機関とする放射光施設。太陽光の約10 億倍の明るさを持つX 線を生成して物質に照射し、様々な物質の内部構造を詳細に観察することが出来る。
 

 論文情報 

タイトル:Surface Charge Transfer Enhanced Cobalt-Phthalocyanine Crystals for Efficient CO2-to-CO Electroreduction with Large Current Density Exceeding 1000 mA cm-2
著者:Tengyi Liu*, Di Zhang*, Yutaro Hirai, Koju Ito, Kosuke Ishibashi, Naoto Todoroki, Yasutaka Matsuo, Jun Yoshida, Shimpei Ono, Hao Li*, Hiroshi Yabu* 
*責任著者:東北大学 材料科学高等研究所 教授 藪 浩
      東北大学 材料科学高等研究所 教授 Hao Li
      東北大学 材料科学高等研究所 特任助教 Tengyi Liu
      東北大学 材料科学高等研究所 助教 Di Zhang

 関連リンク 

 
 

 問い合わせ先 

【研究に関すること】

東北大学材料科学高等研究所 (WPI-AIMR)
    教授 藪 浩(やぶ ひろし)
    Tel:022-217-599
    E-mail:hiroshi.yabu.d5*tohoku.ac.jp
 

【報道に関すること】

東北大学材料科学高等研究所 (WPI-AIMR) 広報戦略室
    Tel:022-217-6146
    E-mail: aimr-outreach*grp.tohoku.ac.jp
 
 
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