研究成果・プレスリリース
【プレスリリース】隠れた端子位置を電気伝導測定から 特定する技術を開発 ─ナノデバイスから地質調査にまで適用できる数学的原理を導出─
2025.4.11
発表のポイント
- シート上に置かれた多端子(注1)の位置を電気信号から決定する手法を開発しました。
- 基準端子の数や配置など、どのような情報があれば多端子全ての位置を特定できるかを理論的に明らかにし、その結果の実証実験に成功しました。
- 宇宙を模した極低温・真空中など、カメラを設置しづらい過酷な環境でも端子位置の決定が可能となるほか、装置の大幅な小型化・低コスト化に寄与し、ナノシート開発に応用されることが期待されます。
概要
原子数層のナノシートでは従来の結晶とは異なる多彩な電子特性が見いだされ、正確な電気伝導測定への期待が高まっています。少なくとも4本以上の電気信号線で構成される多端子を用いることで正確な電気伝導測定を行えます。しかし、極低温や真空などでは電気伝導測定用の多端子の位置を確認することが難しく、高額で大型な装置を用いる必要があるという課題がありました。
宇宙航空研究開発機構 追跡ネットワーク技術センターの庵智幸 研究開発員(研究実施・論文投稿時:大阪大学 大学院情報科学研究科 助教)と東北大学国際放射光イノベーション・スマート研究センター(SRIS)の湯川龍准教授は、シート上に置かれた多端子からの電気信号から各端子の正確な位置を特定する新しい手法を開発し、数学的証明と実証に成功しました。本手法により、測定装置の小型化や環境に依存しない計測が可能となり、ナノシートの開発や地質調査など多様な分野への応用が期待されます。
本成果は2025年3月25日に学術誌Physical Review Appliedに掲載されました。
宇宙航空研究開発機構 追跡ネットワーク技術センターの庵智幸 研究開発員(研究実施・論文投稿時:大阪大学 大学院情報科学研究科 助教)と東北大学国際放射光イノベーション・スマート研究センター(SRIS)の湯川龍准教授は、シート上に置かれた多端子からの電気信号から各端子の正確な位置を特定する新しい手法を開発し、数学的証明と実証に成功しました。本手法により、測定装置の小型化や環境に依存しない計測が可能となり、ナノシートの開発や地質調査など多様な分野への応用が期待されます。
本成果は2025年3月25日に学術誌Physical Review Appliedに掲載されました。
詳細な説明
【研究の背景】
原子数層からなる薄膜や結晶の表面では従来の結晶構造では見られないユニークな電子特性が次々に発見され、より精密な電気伝導測定へのニーズが高まっています。微視的サイズの4本以上の針を電気信号線として使用した多端子を用いることで薄膜や表面における正確な電気伝導の測定が可能となります。しかし、正確な電気伝導測定には各端子の位置を事前に知る必要があります。これまでは多端子の位置を精密に決めるには電子顕微鏡などを搭載した高価で大掛かりな実験装置を用いる必要があるため、多端子を用いた精密測定機、特に高速かつ高精度に電気伝導の測定を可能とする5本以上の多端子を用いた精密測定機は現在も普及していません。また、冷却のための輻射シールドなどに電気伝導の計測ステージが覆われている場合は、そもそも顕微鏡やカメラを用いても位置を決められないという問題があります。
【今回の取り組み】
庵智幸 研究開発員(研究実施・論文投稿時:大阪大学 大学院情報科学研究科 助教)と東北大学 国際放射光イノベーション・スマート研究センター(SRIS)の湯川龍 准教授は顕微鏡やカメラを用いずに伝導シート(注2)上に置かれた多端子からの電気信号から、それぞれの端子位置を正確に決定する手法を考案しました。何本の基準端子がどのような配置にあれば残り全ての端子の位置を決定できるかを示す定理を証明し、さらに実証実験に成功しました。
具体的には、図1のように伝導シート上に位置が分かっている基準端子と位置を求めたい多端子が置かれているときに、任意の4端子を選択して電流-電圧測定(注3)を実施します。この電流-電圧測定の結果から多端子の位置が決定可能である定理を、初等幾何における余弦定理と、終結式を用いた数式処理によって証明しました。本定理によれば、最低3本の基準端子があれば、たとえ伝導シートの抵抗値が未知であっても他の多端子位置の配置パターンをたかだか有限個まで絞り込めることが分かりました。また数理最適化に基づく端子位置決定アルゴリズムを提案し、実際に9本の端子を用いて3本の基準端子に対する残り6本の多端子の位置を正確に求める実証実験に成功しました(図2)。
具体的には、図1のように伝導シート上に位置が分かっている基準端子と位置を求めたい多端子が置かれているときに、任意の4端子を選択して電流-電圧測定(注3)を実施します。この電流-電圧測定の結果から多端子の位置が決定可能である定理を、初等幾何における余弦定理と、終結式を用いた数式処理によって証明しました。本定理によれば、最低3本の基準端子があれば、たとえ伝導シートの抵抗値が未知であっても他の多端子位置の配置パターンをたかだか有限個まで絞り込めることが分かりました。また数理最適化に基づく端子位置決定アルゴリズムを提案し、実際に9本の端子を用いて3本の基準端子に対する残り6本の多端子の位置を正確に求める実証実験に成功しました(図2)。

図1. 伝導シート上に置かれた多端子の模式図。任意の4本の組み合わせから電流-電圧測定を行うことで基準端子に対する各端子位置を決定することができる。端子位置決定には電気信号を用いるため、端子が上方から隠れていても良い。そのため、装置の大幅な簡略化や小型化が可能になると期待される。

図2. 電流-電圧測定から多端子位置を決定する実証実験。(a)顕微鏡画像。(b)電流-電圧測定例。(c) 電流-電圧測定から決定した多端子位置と顕微鏡の画像を重ね合わせたもの。実証実験では比較のため顕微鏡像を用いたが実際の使用においては不要である。
【今後の展開】
本研究成果は今まで顕微鏡やカメラが必要と考えられていたところで、電気信号から多端子の位置決定が可能であることを示した画期的なものであり、装置の大幅な簡略化や小型化が可能になると期待されます。本手法では伝導シートと基準端子を用いれば温度や真空度などの環境に依存せず応用可能であるため、原理的には宇宙環境を模した極低温真空装置内に配置されたマイクロスケールの微小な針の位置を決定することができます。今後ますます重要になるナノシートの開発や過酷な宇宙環境でも動作するナノデバイスの研究開発への展開が期待されます。さらには水脈や鉱物探索のための多端子を用いた地質調査への応用も期待されます。
本研究成果は今まで顕微鏡やカメラが必要と考えられていたところで、電気信号から多端子の位置決定が可能であることを示した画期的なものであり、装置の大幅な簡略化や小型化が可能になると期待されます。本手法では伝導シートと基準端子を用いれば温度や真空度などの環境に依存せず応用可能であるため、原理的には宇宙環境を模した極低温真空装置内に配置されたマイクロスケールの微小な針の位置を決定することができます。今後ますます重要になるナノシートの開発や過酷な宇宙環境でも動作するナノデバイスの研究開発への展開が期待されます。さらには水脈や鉱物探索のための多端子を用いた地質調査への応用も期待されます。
謝辞
本研究は、JSPS 科学研究費助成事業(23H01106, 22K17855, 23K17878)の支援を受けて行われました。
用語説明
注1. 多端子:
本研究では試料に接触させ電気伝導測定を行うための端子で4本以上のものを多端子としています。
本研究では試料に接触させ電気伝導測定を行うための端子で4本以上のものを多端子としています。
注2. 伝導シート:
正確には、端子間距離に比べて厚さを無視できる程薄く、十分な広さをもつ伝導シートとなります。
注3. 電流-電圧測定:
I-V測定とも呼ばれています。4本の端子中、2本の端子間で電流を流し、他の2本で電圧を読み取ることで接触抵抗に寄らずに高精度な抵抗測定が可能となる手法です。
I-V測定とも呼ばれています。4本の端子中、2本の端子間で電流を流し、他の2本で電圧を読み取ることで接触抵抗に寄らずに高精度な抵抗測定が可能となる手法です。
論文情報
タイトル:Probe position determination with multichannel I-V measurements in a two-dimensional sheet: Computational method and mathematical analysis
著者:庵 智幸*、湯川 龍*
著者:庵 智幸*、湯川 龍*
*責任著者:
宇宙航空研究開発機構(JAXA) 追跡ネットワーク技術センター 研究開発員
庵 智幸(研究実施・論文投稿時:大阪大学 大学院情報科学研究科 助教)
東北大学 国際放射光イノベーション・スマート研究センター(SRIS) 准教授
湯川 龍
掲載誌:Physical Review Applied
DOI: 10.1103/PhysRevApplied.23.034064
URL: https://journals.aps.org/prapplied/abstract/10.1103/PhysRevApplied.23.034064
宇宙航空研究開発機構(JAXA) 追跡ネットワーク技術センター 研究開発員
庵 智幸(研究実施・論文投稿時:大阪大学 大学院情報科学研究科 助教)
東北大学 国際放射光イノベーション・スマート研究センター(SRIS) 准教授
湯川 龍
掲載誌:Physical Review Applied
DOI: 10.1103/PhysRevApplied.23.034064
URL: https://journals.aps.org/prapplied/abstract/10.1103/PhysRevApplied.23.034064
関連リンク
問い合わせ先
【研究に関すること】
東北大学 国際放射光イノベーション・スマート研究センター(SRIS)
准教授 湯川 龍
E-mail:r.yukawa*tohoku.ac.jp
准教授 湯川 龍
E-mail:r.yukawa*tohoku.ac.jp
【報道に関すること】
東北大学国際放射光イノベーション・スマート研究センター(SRIS) 総務係
Tel:022-752-2331
Tel:022-752-2331
E-mail: sris-soumu*grp.tohoku.ac.jp
※E-mailは*を@に置き換えてください。
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東北大学 国際放射光イノベーション・スマート研究センター
〒980-8572 仙台市青葉区荒巻字青葉468−1