研究成果・プレスリリース
【プレスリリース】バルクでは磁石につかない物質を原子層厚の薄膜で磁石に変換 ─ 次世代スピントロニクスへの応用に期待 ─
2025.4.21
発表のポイント
- 物質の中には、原子数個レベルの厚みの薄膜にすると、十分な厚みをもつ通常の状態(バルク状態)とは全く異なる性質を示すものがありますが、磁石にくっつかない物質を薄膜にしても磁石にくっつくように変化することはないと理論的に予想されていました。
- しかし例外があることも予想されており、三セレン化二クロム(Cr2Se3)という物質で薄膜を作ったところ、磁石にくっつくように変わることを発見しました。高輝度放射光(注1)から発生するX線で調べると、薄膜を作るときの「台」に当たるシート状炭素グラフェン(注2)から薄膜への電子の移動によるものであることが分かりました。
- 現代のエレクトロニクスは電子の電気的性質だけを使っていますが、磁気的性質(スピン(注3))も合わせて使うことで性能を向上させる「スピントロニクス」(注4)が注目されています。今回の成果はスピントロニクスの可能性を広げるものとして期待されます。
概要
電子がもつミクロな磁石の性質である「スピン」が物質中で揃うと強磁性(注5)が発現します。もし原子レベルの薄さをもつ二次元物質で強磁性が実現すれば、次世代スピントロニクスへの応用が期待できます。しかし、理論的には二次元物質では磁気秩序が消失すると予測されていました。
東北大学、高エネルギー加速器研究機構、量子科学技術研究開発機構からなる研究グループは、クロムを含む反強磁性体(注6)Cr2Se3に着目し、分子線エピタキシー法(注7)によってグラフェン上にCr2Se3の二次元薄膜を成長させることに成功しました。1層から3層まで膜厚を系統的に変化させた試料を高輝度放射光X線で調べた結果、三次元の結晶では反強磁性を示すCr2Se3が、二次元になると強磁性へ転じ、さらに膜厚が薄いほど強磁性転移温度(TC)が高まることを明らかにしました。加えて、マイクロARPES(注8)による電子状態解析から、グラフェン基板から界面を介してCr2Se3に注入される伝導電子が、この高温強磁性の決定的な要因であることを突き止めました。
本成果は二次元材料で高温強磁性を安定化させる新たな手法を提案するとともに、スピントロニクスデバイスや省エネルギー素子などへの応用に道を拓くものとして期待されます。
本研究成果は、2025年4月18日(現地時間)に科学誌Nature Communicationsのオンライン版にて公開されます。東北大学、高エネルギー加速器研究機構、量子科学技術研究開発機構からなる研究グループは、クロムを含む反強磁性体(注6)Cr2Se3に着目し、分子線エピタキシー法(注7)によってグラフェン上にCr2Se3の二次元薄膜を成長させることに成功しました。1層から3層まで膜厚を系統的に変化させた試料を高輝度放射光X線で調べた結果、三次元の結晶では反強磁性を示すCr2Se3が、二次元になると強磁性へ転じ、さらに膜厚が薄いほど強磁性転移温度(TC)が高まることを明らかにしました。加えて、マイクロARPES(注8)による電子状態解析から、グラフェン基板から界面を介してCr2Se3に注入される伝導電子が、この高温強磁性の決定的な要因であることを突き止めました。
本成果は二次元材料で高温強磁性を安定化させる新たな手法を提案するとともに、スピントロニクスデバイスや省エネルギー素子などへの応用に道を拓くものとして期待されます。
詳細な説明
【研究の背景】
強磁性を示す物質、いわゆる磁石は、モーターや電子レンジ、冷蔵庫といった家電から、携帯電話やパソコンなどのIT機器に至るまで、私たちの日常生活に欠かせない存在です。一般的な強磁性体は十分な厚みをもつ三次元(バルク)物質であり、その強磁性を制御するには磁場を印加する必要があります。一方、原子レベルの厚さしかない二次元物質では、磁場に加えて電場や圧力、ひずみなどでも強磁性を制御しやすいため、小型化や省エネルギー化が求められる次世代の磁気デバイスに応用できる可能性があります。
1966年に米コーネル大学のマーミンとワグナーが「方向性をもたない二次元物質では磁性が安定化しない」としたマーミン・ワグナーの定理(図1)を提唱して以降、二次元物質における強磁性の実現は半世紀以上にわたって困難とみなされてきました。しかし近年、層間が弱い分子間力のファンデルワールス(van der Waals:vdW)力(注9)で結合している一部の物質において、極限まで薄くしても磁性が失われないことが実験的に示され、大きな注目を集めています。こうした二次元vdW強磁性体は、一般に強磁性転移温度(キュリー温度:TC)が低いという問題があり、実用化に向けてはさらなる研究が求められていました。
このような中、最近になり、vdW力ではない力で結合しているクロム(Cr)化合物の一部においても二次元強磁性が可能であるという理論提案が報告され、高温での強磁性実現に向けた新たな道を拓くと期待されています。しかしながら、実験的な検証はこれまでほとんど進んでいませんでした。
1966年に米コーネル大学のマーミンとワグナーが「方向性をもたない二次元物質では磁性が安定化しない」としたマーミン・ワグナーの定理(図1)を提唱して以降、二次元物質における強磁性の実現は半世紀以上にわたって困難とみなされてきました。しかし近年、層間が弱い分子間力のファンデルワールス(van der Waals:vdW)力(注9)で結合している一部の物質において、極限まで薄くしても磁性が失われないことが実験的に示され、大きな注目を集めています。こうした二次元vdW強磁性体は、一般に強磁性転移温度(キュリー温度:TC)が低いという問題があり、実用化に向けてはさらなる研究が求められていました。
このような中、最近になり、vdW力ではない力で結合しているクロム(Cr)化合物の一部においても二次元強磁性が可能であるという理論提案が報告され、高温での強磁性実現に向けた新たな道を拓くと期待されています。しかしながら、実験的な検証はこれまでほとんど進んでいませんでした。
【今回の取り組み】
東北大学大学院理学研究科のC. W. Chuang大学院生(研究当時)、菅原克明准教授、同大材料科学高等研究所(WPI-AIMR)の佐藤宇史教授、同大多元物質科学研究所の組頭広志教授、量子科学技術研究開発機構(QST)NanoTerasuセンターの堀場弘司グループリーダー、北村未歩主任研究員(研究当時:高エネルギー加速器研究機構(KEK)物質構造科学研究所助教)、台湾同歩輻射研究中心、フランス・ロレーヌ大学およびSOLEIL放射光施設の国際共同研究グループは、ニ次元の極限で強磁性が実現すると理論的に予測されていた非vdW型のクロムセレン化合物Cr2Se3(図2a)に着目しました。バルク状態のCr2Se3は、隣接するスピンが反平行に並ぶことで正味の磁化をもたない反強磁性体であり、磁性材料としての実用性はこれまでほとんど期待されていませんでした。本研究グループは、分子線エピタキシー法を用い、グラフェン上にCr2Se3の1~3層(1層はSe-Cr-Se-Cr-Seの5原子層に対応)からなる超薄膜を作製することに成功しました。
放射光を用いたX線磁気円二色性(XMCD)(注10)測定と、東北大学・KEKが共同開発したマイクロARPES装置(図2b)による測定の結果、バルクとは異なり、これらの薄膜試料はいずれも強磁性を示すことが明らかになりました。さらに、3層から1層へと膜厚を薄くするほど、TCが150 K、175 K、225 K(単位の読み方はケルビン。それぞれ-123.15℃、-98.15℃、-48.5℃に相当。)と段階的に上昇し、TCが高い試料ほど伝導電子キャリアが増加することが分かりました。また、Cr2Se3薄膜とグラフェン基板のエネルギーバンド構造(注11)を精密に観測したところ(図2c)、これらの電子キャリアは界面を介してグラフェンから注入された電子によって生じ(図2a)、さらにCr 3d電子(注12)に由来する伝導帯の「谷」(図2d: バレー電子)に起因したフェルミ面がスピン偏極する「スピン-バレー結合」(注13)を通して強磁性の安定化に寄与していることが判明しました。
この成果は、スピン-バレー結合が高温強磁性の鍵となること、そして基板との接合によるキャリア注入によって薄膜強磁性を容易に制御できることを世界で初めて示したものです。今後は、こうした高温強磁性のメカニズムを応用することで、次世代スピントロニクスデバイスや省エネルギー素子などへの発展的応用が期待されます。
放射光を用いたX線磁気円二色性(XMCD)(注10)測定と、東北大学・KEKが共同開発したマイクロARPES装置(図2b)による測定の結果、バルクとは異なり、これらの薄膜試料はいずれも強磁性を示すことが明らかになりました。さらに、3層から1層へと膜厚を薄くするほど、TCが150 K、175 K、225 K(単位の読み方はケルビン。それぞれ-123.15℃、-98.15℃、-48.5℃に相当。)と段階的に上昇し、TCが高い試料ほど伝導電子キャリアが増加することが分かりました。また、Cr2Se3薄膜とグラフェン基板のエネルギーバンド構造(注11)を精密に観測したところ(図2c)、これらの電子キャリアは界面を介してグラフェンから注入された電子によって生じ(図2a)、さらにCr 3d電子(注12)に由来する伝導帯の「谷」(図2d: バレー電子)に起因したフェルミ面がスピン偏極する「スピン-バレー結合」(注13)を通して強磁性の安定化に寄与していることが判明しました。
この成果は、スピン-バレー結合が高温強磁性の鍵となること、そして基板との接合によるキャリア注入によって薄膜強磁性を容易に制御できることを世界で初めて示したものです。今後は、こうした高温強磁性のメカニズムを応用することで、次世代スピントロニクスデバイスや省エネルギー素子などへの発展的応用が期待されます。

図1. 1966年、マーミンとワグナーは、三次元物質では強磁性秩序が安定化する一方で、方向性をもたない二次元物質では熱ゆらぎなどにより磁気秩序が安定しないとする理論的予測を示しました(左図:3次元、右図:2次元)。

図2.
(a)グラフェン基板上に成長した単層Cr2Se3の結晶構造の模式図。
(b)マイクロARPES装置の写真。物質表面に紫外線を照射し、外部光電効果によって放出される光電子のエネルギーと運動量を精密に測定することで、物質の電子構造を明らかにできます。また、照射する光をミクロンオーダーまで絞ることで、磁気ドメインが分離した微小領域の電子構造を局所的に解析することが可能になります。
(c)マイクロARPESによって決定された単層Cr2Se3のエネルギーバンド構造。
(d)グラフェン基板からの電子移動によって電子が占有したバレー状態。
【今後の展開】
本研究では、放射光を用いた先端的な分光手法によって、Cr2Se3薄膜における高温強磁性とその起源を解明しました。基板からの電子移動が高い転移温度の獲得に効果的であることを実証したことで、同様のメカニズムが他の二次元物質にも適用できる可能性が見いだされ、より高いTCの実現に期待が高まります。今後、室温を上回る強磁性と、それに伴うキャリア注入や外場(外部から加える磁場、電場、光照射など)制御が実現すれば、このメカニズムを応用した新たなスピントロニクスデバイスや素子の開発へと道が拓かれるでしょう。
さらに、本成果は高輝度放射光が磁気や電子状態、機能性の解明に極めて有用であることを改めて示すものです。量子科学技術研究開発機構(QST)と光科学イノベーションセンター(PhoSIC)が整備し、東北大学敷地内で稼働を開始した3 GeV高輝度放射光施設(NanoTerasu)において、本研究で得られた知見をもとにナノ集光ARPES装置が導入・稼働すれば、本分野の研究はさらに加速すると期待されます。多様な材料における革新的な機能の理解や開拓が一層進むことで、産業や社会への波及効果も大きいと考えられます。
本研究では、放射光を用いた先端的な分光手法によって、Cr2Se3薄膜における高温強磁性とその起源を解明しました。基板からの電子移動が高い転移温度の獲得に効果的であることを実証したことで、同様のメカニズムが他の二次元物質にも適用できる可能性が見いだされ、より高いTCの実現に期待が高まります。今後、室温を上回る強磁性と、それに伴うキャリア注入や外場(外部から加える磁場、電場、光照射など)制御が実現すれば、このメカニズムを応用した新たなスピントロニクスデバイスや素子の開発へと道が拓かれるでしょう。
さらに、本成果は高輝度放射光が磁気や電子状態、機能性の解明に極めて有用であることを改めて示すものです。量子科学技術研究開発機構(QST)と光科学イノベーションセンター(PhoSIC)が整備し、東北大学敷地内で稼働を開始した3 GeV高輝度放射光施設(NanoTerasu)において、本研究で得られた知見をもとにナノ集光ARPES装置が導入・稼働すれば、本分野の研究はさらに加速すると期待されます。多様な材料における革新的な機能の理解や開拓が一層進むことで、産業や社会への波及効果も大きいと考えられます。
謝辞
本成果は、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業CREST「トポロジカル材料科学に基づく革新的機能を有する材料・デバイスの創出」研究領域(研究総括:上田正仁)における研究課題「ナノスピンARPESによるハイブリッドトポロジカル材料創製」(JPMJCR18T1)(研究代表者:佐藤宇史)などの支援を受けて行われました。また、実験は高エネルギー加速器研究機構物質構造科学研究所放射光共同利用実験課題(課題番号:2020G669、2021S2-001、2021G005、2022G007、2022PF-G005)により実施しました。また本論文は『東北大学2025年度オープンアクセス推進のためのAPC支援事業』の支援を受けて出版されます。
用語説明
注1. 放射光
数GeV(ギガ電子ボルト)級のエネルギーをもつ電子を円形加速器内で周回させ、磁場で軌道を曲げる際に放出される、高い指向性をもつ電磁波の総称です。赤外線から可視光、紫外線、X線、γ線に至るまで幅広い波長帯をカバーし、材料科学やデバイス開発、環境科学、医学、生物学、考古学など、多彩な分野で原子・分子構造や元素の状態を解析するために用いられます。
数GeV(ギガ電子ボルト)級のエネルギーをもつ電子を円形加速器内で周回させ、磁場で軌道を曲げる際に放出される、高い指向性をもつ電磁波の総称です。赤外線から可視光、紫外線、X線、γ線に至るまで幅広い波長帯をカバーし、材料科学やデバイス開発、環境科学、医学、生物学、考古学など、多彩な分野で原子・分子構造や元素の状態を解析するために用いられます。
注2. グラフェン
炭素原子が六角形構造をとり、二次元に蜂の巣状に広がったシート状の物質です。黒鉛(グラファイト)を非常に薄く剥離するなどして得ることができます。グラフェン中の電子は「ディラック電子」と呼ばれる特有のエネルギー・運動量関係を示します。
炭素原子が六角形構造をとり、二次元に蜂の巣状に広がったシート状の物質です。黒鉛(グラファイト)を非常に薄く剥離するなどして得ることができます。グラフェン中の電子は「ディラック電子」と呼ばれる特有のエネルギー・運動量関係を示します。
注3. スピン
電子がもつ自転由来の磁気モーメントで、最小単位の磁石とみなすことができます。スピンの向きには上向きと下向きの2つの状態があり、物質中では電磁気相互作用などにより様々な方向に整列します。強磁性体(磁石)ではスピンが一方向に揃いますが、反強磁性体では打ち消し合うように並ぶため、見かけ上の磁化はゼロになります。
電子がもつ自転由来の磁気モーメントで、最小単位の磁石とみなすことができます。スピンの向きには上向きと下向きの2つの状態があり、物質中では電磁気相互作用などにより様々な方向に整列します。強磁性体(磁石)ではスピンが一方向に揃いますが、反強磁性体では打ち消し合うように並ぶため、見かけ上の磁化はゼロになります。
注4. スピントロニクス
電子の磁気的性質であるスピンを利用する、まったく新しいタイプの電子デバイスを開発する研究分野です。電子スピンは応答が速く、情報の保持にほとんど電力を要さないため、従来の電荷ベースの技術を超えた超高速・超低消費電力の次世代集積回路の実現が期待されています。
電子の磁気的性質であるスピンを利用する、まったく新しいタイプの電子デバイスを開発する研究分野です。電子スピンは応答が速く、情報の保持にほとんど電力を要さないため、従来の電荷ベースの技術を超えた超高速・超低消費電力の次世代集積回路の実現が期待されています。
注5. 強磁性
一般に磁石として知られる現象で、物質内部の電子スピンが同一方向に揃った状態を指します。
注6. 反強磁性体
一般的な強磁性体では電子スピンが一方向に揃って磁石となりますが、反強磁性体ではスピンが反対向きに並び、全体として磁化を打ち消し合う性質をもちます。スピンの配列形態は複雑な場合も多く、強磁性体より反強磁性体の方が種類としては数多く存在すると考えられています。
一般的な強磁性体では電子スピンが一方向に揃って磁石となりますが、反強磁性体ではスピンが反対向きに並び、全体として磁化を打ち消し合う性質をもちます。スピンの配列形態は複雑な場合も多く、強磁性体より反強磁性体の方が種類としては数多く存在すると考えられています。
注7. 分子線エピタキシー法
超高真空中に配置した複数の蒸着源(材料)を加熱して蒸発させ、その蒸気を対向する基板上に堆積させることで薄膜を形成する手法です。膜厚を原子レベルで制御しながら高品質な単結晶薄膜を作製できる点が大きな特徴です。
超高真空中に配置した複数の蒸着源(材料)を加熱して蒸発させ、その蒸気を対向する基板上に堆積させることで薄膜を形成する手法です。膜厚を原子レベルで制御しながら高品質な単結晶薄膜を作製できる点が大きな特徴です。
注8. マイクロARPES
物質表面に紫外線やX線を照射すると放出される光電子(外部光電効果)を、エネルギーや運動量ごとに分解して測定し、物質中の電子状態を調べる手法がARPES(角度分解光電子分光)です。1905年にアインシュタインが光量子仮説で説明した外部光電効果が基礎となっています。マイクロARPESは、K-Bミラーなどを用いて照射光をマイクロメートルスケールに集光することで、高い空間分解能とエネルギー分解能を両立させ、試料の微小領域を高精度に観測できます。
物質表面に紫外線やX線を照射すると放出される光電子(外部光電効果)を、エネルギーや運動量ごとに分解して測定し、物質中の電子状態を調べる手法がARPES(角度分解光電子分光)です。1905年にアインシュタインが光量子仮説で説明した外部光電効果が基礎となっています。マイクロARPESは、K-Bミラーなどを用いて照射光をマイクロメートルスケールに集光することで、高い空間分解能とエネルギー分解能を両立させ、試料の微小領域を高精度に観測できます。
注9. ファンデルワールス(van der Waals:vdW)力
原子、イオン、分子間に働く分子間力の一種で、共有結合やイオン結合などと比べると結合強度は弱いのが特徴です。黒鉛(グラファイト)の層間をはじめ、多くの物質でこの力による層状構造が形成されています。
原子、イオン、分子間に働く分子間力の一種で、共有結合やイオン結合などと比べると結合強度は弱いのが特徴です。黒鉛(グラファイト)の層間をはじめ、多くの物質でこの力による層状構造が形成されています。
注10. X線磁気円二色性(XMCD)
円偏光したX線を試料に照射し、その吸収スペクトルの変化を調べることで磁気特性を評価する手法です。スピンおよび軌道磁気モーメントの大きさや向きを反映して吸収強度が変化するため、強磁性や磁気異方性などの情報を得ることができます。
円偏光したX線を試料に照射し、その吸収スペクトルの変化を調べることで磁気特性を評価する手法です。スピンおよび軌道磁気モーメントの大きさや向きを反映して吸収強度が変化するため、強磁性や磁気異方性などの情報を得ることができます。
注11. エネルギーバンド構造
固体中の電子は、物質の結晶構造や構成元素によって決まる特定のエネルギーと運動量の関係(バンド構造)をもっています。このバンド構造が、電気伝導や磁性など、物質固有の性質を大きく左右します。
固体中の電子は、物質の結晶構造や構成元素によって決まる特定のエネルギーと運動量の関係(バンド構造)をもっています。このバンド構造が、電気伝導や磁性など、物質固有の性質を大きく左右します。
注12. 3d電子
原子の核外電子のM殻を構成する3d軌道にある電子を指します。原子番号19から30番の元素を3d遷移金属と言い、そのうちCrや鉄(Fe)を含む19から28番までは3d軌道に電子がつまる前にM殻の外側にあるN殻の4s軌道に電子が入ります。3d軌道の一部が空のため、3d軌道が全部埋まった、あるいは3d電子をもたないことで磁性が生じない金属と違う性質を示します。
原子の核外電子のM殻を構成する3d軌道にある電子を指します。原子番号19から30番の元素を3d遷移金属と言い、そのうちCrや鉄(Fe)を含む19から28番までは3d軌道に電子がつまる前にM殻の外側にあるN殻の4s軌道に電子が入ります。3d軌道の一部が空のため、3d軌道が全部埋まった、あるいは3d電子をもたないことで磁性が生じない金属と違う性質を示します。
注13. スピン-バレー結合
空間反転対称性が破れた遷移金属ダイカルコゲナイドなどの半導体では、ゼロ磁場でもスピンが分裂した状態のバンドが形成されます。伝導帯の「谷」(バレー)に電子をドーピングすると、フェルミ面がスピン分極したバレー構造をとり、これをスピン-バレー結合と呼びます。スピンとバレーの自由度が組み合わさることで、多彩な物性が生まれると期待されています。
空間反転対称性が破れた遷移金属ダイカルコゲナイドなどの半導体では、ゼロ磁場でもスピンが分裂した状態のバンドが形成されます。伝導帯の「谷」(バレー)に電子をドーピングすると、フェルミ面がスピン分極したバレー構造をとり、これをスピン-バレー結合と呼びます。スピンとバレーの自由度が組み合わさることで、多彩な物性が生まれると期待されています。
論文情報
タイトル:Spin-valley coupling enhanced high-TC ferromagnetism in a non-van der Waals monolayer Cr2Se3 on graphene
著者: C.-W. Chuang, T. Kawakami, K. Sugawara, K. Nakayama, S. Souma, M. Kitamura, K. Amemiya, K. Horiba, H. Kumigashira, G. Kremer, Y. Fagot-Revurat, D. Malterre, C. Bigi, F. Bertran, F. H. Chang, H. J. Lin, C. T. Chen, T. Takahashi, A. Chainani, and T. Sato*
*責任著者:東北大学材料科学高等研究所 教授 佐藤宇史
掲載誌:Nature Communications
DOI:10.1038/s41467-025-58643-3
著者: C.-W. Chuang, T. Kawakami, K. Sugawara, K. Nakayama, S. Souma, M. Kitamura, K. Amemiya, K. Horiba, H. Kumigashira, G. Kremer, Y. Fagot-Revurat, D. Malterre, C. Bigi, F. Bertran, F. H. Chang, H. J. Lin, C. T. Chen, T. Takahashi, A. Chainani, and T. Sato*
*責任著者:東北大学材料科学高等研究所 教授 佐藤宇史
掲載誌:Nature Communications
DOI:10.1038/s41467-025-58643-3
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問い合わせ先
【研究に関すること】
東北大学材料科学高等研究所(WPI-AIMR)
(兼)同大学大学院理学研究科
(兼)同大学先端スピントロニクス研究開発センター
(兼)同大学国際放射光イノベーション・スマート研究センター
教授 佐藤 宇史 (さとう たかふみ)
E-mail:t-sato*arpes.phys.tohoku.ac.jp
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【報道に関すること】
東北大学材料科学高等研究所(WPI-AIMR)広報戦略室
電話:022-217-6146
E-mail:aimr-outreach*grp.tohoku.ac.jp
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〒980-8572 仙台市青葉区荒巻字青葉468−1