研究成果・プレスリリース
【プレスリリース】歯科治療で発生する飛沫・エアロゾルの可視化に成功 — より清潔で安心な歯科医療環境の技術開発へ期待 —
発表のポイント
- 歯科治療で発生する飛沫・エアロゾル(水しぶきや水霧)には口の中の微小粒子が含まれるため、新型コロナウイルス感染症の予防の観点からも、その飛散・拡散動態の解明が求められています。
- これまで困難であった歯科治療で発生する飛沫・エアロゾルのリアルタイムでの可視化に成功しました。
- 飛沫・エアロゾル飛散の抑制に口腔内バキュームだけでなく、口腔外バキュームの併用が効果的であることを視覚的に明らかにしました。
概要
東北大学病院 歯科医療管理部の渡辺隼助教、小林洋子講師、東北大学大学院歯学研究科の金髙弘恭教授、江草宏教授および山内健介教授らの研究グループは、東北大学国際放射光イノベーション・スマート研究センターの矢代航教授(東北大学多元物質科学研究所 兼務)、東北大学大学院工学研究科の菊地謙次准教授および国立病院機構仙台医療センターの西村秀一センター長らと共同で、レーザー光源と高感度高速度カメラを応用し、歯科用エアータービンで発生する飛沫・エアロゾルの可視化に成功しました。さらには、口腔内バキュームと口腔外バキュームを併用することで、発生する飛沫・エアロゾルが大幅に抑制されることを明らかにしました。
本研究成果は様々な臨床現場で発生する飛沫・エアロゾルの解析を可能とし、より清潔で安心な歯科医療環境の開発につながると期待されます。
本研究成果は、2023年2月22日にJournal of Prosthodontic Researchのオンライン版に掲載されました。
詳細な説明
歯科治療では高速回転器具や超音波装置を使用する際に水を噴霧することで冷却や切削効果を高めますが、この時に飛沫・エアロゾル注1が発生します。この飛沫・エアロゾルには唾液、血液、粘膜、歯垢由来の細菌、ウイルスなどの微生物、および歯科材料(歯の被せ物や詰め物)由来の微小粒子が含まれていることが知られています。この微生物や微小粒子は患者や歯科医療従事者の健康に影響を及ぼす懸念があり、飛沫・エアロゾルの動態の解明が重要であると考えられています。しかしながら従来の測定は、定点における微粒子計測器や細菌培養といった間接的測定、あるいは蛍光色素を用いた測定法が主に用いられていました。実際に歯科治療環境で応用可能なリアルタイムに観測できる新たな手法の開発が望まれていました。
東北大学病院 歯科医療管理部の渡辺隼助教、小林洋子講師、東北大学大学院歯学研究科の金髙弘恭教授、江草宏教授および山内健介教授らの研究グループは、東北大学国際放射光イノベーション・スマート研究センターの矢代航教授(東北大学多元物質科学研究所 兼務)、東北大学大学院工学研究科の菊地謙次准教授および国立病院機構仙台医療センターの西村秀一センター長らと共同で、高輝度LED光源と高感度高速度カメラを応用し、染色色素等を用いることなく、歯科用エアータービンで発生する飛沫・エアロゾルの可視化に成功しました。
本研究グループはレーザー技術を応用することにより、実際の歯科医療環境で発生する飛沫・エアロゾルの観測が可能となる道筋を示しました。今後様々な臨床環境で解析を行うことで、歯科治療由来飛沫・エアロゾルの動態の解明とつながり、新たな歯科治療プロトコールの樹立や空気清浄装置の開発等、より清潔で安心な歯科医療環境の開発につながると期待されます。
【謝辞】
本研究は、物質・デバイス領域共同研究拠点共同研究課題 機動的プロジェクトおよび東北大学感染症共生システムデザイン学際研究重点拠点 SDGS-ID若手研究者支援プロジェクト、(公社)日本口腔外科学会「口腔外科手術におけるエアロゾル発生に関する調査研究助成」の一環で行われました。
用語説明
飛沫とエアロゾルは微小な粒子が空気中に浮遊している状態だが、微小粒子のサイズにより伝播距離などが異なる。飛沫は比較的大きな粒子で、数十センチメートルから2メートル程度の距離で落下する傾向がある。一方、エアロゾルは微小な粒子で、比較的長時間空気中に漂い、数メートル以上の距離を移動することが可能である。
論文情報
タイトル:Visualization of droplets and aerosols in simulated dental treatments to clarify the effectiveness of oral suction devices
著者:Jun Watanabe, Yoko Iwamatsu-kobayashi, Kenji Kikuchi, Tomonari Kajita, Hiromitsu Morishima, Kensuke Yamauchi, Wataru Yashiro, Hidekazu Nishimura, Hiroyasu Kanetaka*, Hiroshi Egusa*
*責任著者:東北大学大学院歯学研究科 教授 金髙弘恭・江草 宏
掲載誌:Journal of Prosthodontic Research
DOI: 10.2186/jpr.JPR_D_23_00013
URL:https://www.jstage.jst.go.jp/article/jpr/advpub/0/advpub_JPR_D_23_00013/_article/-char/en
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問い合わせ先
【研究に関すること】
歯学イノベーションリエゾンセンター
異分野共創部門
教授 金髙 弘恭(かねたか ひろやす)
E-mail: hiroyasu.kanetaka.e6*tohoku.ac.jp
分子・再生歯科補綴学分野
教授 江草 宏(えぐさ ひろし)
【報道に関すること】
電話: 022-717-8260
E-mail: den-koho*grp.tohoku.ac.jp
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東北大学 国際放射光イノベーション・スマート研究センター
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