Tohoku University, International Center for Synchrotron Radiation Innovation Smart (SRIS)

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研究成果・プレスリリース

【プレスリリース】サブミリ秒の時間分解能で四次元X線CTの原理実証に成功 ~実材料の学術研究から産業応用への波及効果に期待~

2023.7.11

 発表のポイント 

  • 1ミリ秒(1000分の1秒)よりも短い時間スケールには、人類がこれまで知らなかった様々な現象が潜んでいると期待されます。
  • 世界で初めてサブミリ秒(1万分の1秒オーダー)時間分解能での四次元(4D:三次元(3D)+時間)X線CTの原理実証に成功しました。
  • 本技術により材料破壊、流体や粘弾性体の挙動、機械加工、摩耗、溶接、燃焼など、繰り返しが不可能な現象の4D可視化が可能になると期待されます。
 

 概要 

 1秒間に30コマ(0.03秒/コマ)程度を超えるスピードで静止画を連続再生すると、人間の目には動画のように見えます。近年の高速カメラの進歩は目覚ましく、人間の目の認識をはるかに超える短い時間スケールの現象も1コマ1コマ克明に写し出せるようになり、人類がこれまで知らなかった様々な現象が潜んでいることが分かってきました。しかしながら、可視光で観察できるのは、おもに物体の表面のみです。X線CTを用いると、物体の投影像を様々な方向から撮影することにより、物体の内部まで3D的に可視化できます。
 東北大学国際放射光イノベーション・スマート研究センターの矢代航教授を中心とする研究チームは、シンクロトロン放射光(注1)という非常に強力なX線を複数の異なる方向から当てるマルチビーム化という独創的なアイディアなどによって、1ミリ秒を超える0.5 ミリ秒時間分解能での4D-X線CTの原理実証に世界で初めて成功しました。本技術の開発により、材料の破壊、流体や粘弾性体などの挙動、機械加工、摩耗、溶接、燃焼など、繰り返しが不可能な現象の4D可視化が可能になり、学術研究から産業応用に至る様々な分野への波及効果が期待されます。
 本研究成果は、2023年7月6日付で応用物理学分野の専門誌Applied Physics Express誌に掲載されました。
 
 

 詳細な説明 

研究の背景

 X線CTは1970年代に開発された方法で、物体の投影像を様々な方向から撮影することにより、物体の内部を三次元的に可視化する方法です。病院にあるX線CT装置(CTスキャナ)では、撮影に数秒~数10秒程度の時間を要しますが、強力なX線ビームであるシンクロトロン放射光を用いると、さらに高速なX線CTが可能です。しかしながら様々な方向から試料の投影像を撮影するためには試料を高速で回転する必要があります。例えば1ミリ秒時間分解能でX線CTを実現しようとすると、試料を1分間に3万回転という非常に高速で回転する必要があります。その結果、試料が遠心力で変形してしまったり、流動性のある試料には適用できなかったり、試料環境の制御が困難であったり、といった問題がありました。そのため、これまでの4D-X線CTの時間分解能は、シンクロトロン放射光を用いた場合でも10ミリ秒前後にとどまっていました。

 
今回の取り組み

 東北大学の矢代教授らの共同研究グループは、シンクロトロン放射光を約30ビームにマルチビーム化する独創的な光学素子と、すべての投影像を同時に撮影するためのマルチビーム画像検出器、さらに、少ない投影数での3D可視化を可能にする圧縮センシング(注2)に基づく最先端のCT再構成アルゴリズムを開発することにより、世界で初めて時間分解能1ミリ秒を超える0.5ミリ秒(空間分解能:約10マイクロメートル)での4D-X線CTの原理実証に成功しました。
 実験は大型放射光施設SPring-8(注3)のビームラインBL28B2のシンクロトロン放射光を用いて行われました。図1はマルチビーム光学系の配置図(上から見た図)と写真(左上図・左下図)、およびシンクロトロン放射光をマルチビーム化する光学素子(マルチビーム結晶)の写真(右図)を示しています。図2は時間分解能0.5ミリ秒でタングステンワイヤーを曲げている様子を4D-X線CT撮影した例を示しています(動画はURL、QRコードを参照)。

 
今後の展開

 本技術の開発により、従来の技術では捉えられなかった繰り返しが不可能な現象の4D-X線CT観察が可能になるため、材料の破壊、流体や粘弾性体などの挙動、機械加工、摩耗、溶接、燃焼など、学術研究から産業応用に至る様々な分野への波及効果が期待されます。

 

 説明図 

図1.(左)マルチビーム光学系の配置図(上から見た図)(上図)と写真(下図)。(右)シンクロトロン放射光をマルチビーム化する光学素子(マルチビーム結晶)の写真。
 
図2. 時間分解能0.5ミリ秒でタングステンワイヤーを曲げている様子を4D-X線CT撮影した例(3コマのみ表示)。
動画URL:
動画QRコード:

※2023年9月4日、動画のURLとQRコードを修正しました。
 

【謝辞】
 本研究で開発したシンクロトロン放射光をマルチビーム化する光学素子は、東北大学多元物質科学研究所技術室の機械工場、および東北大学ナノテク融合技術支援センターにおいて作製されました。本研究は、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業チーム型研究(CREST)「計測技術と高度情報処理の融合によるインテリジェント計測・解析手法の開発と応用」(研究統括:雨宮慶幸)における研究課題「超圧縮センシングによるミリ秒X線トモグラフィ法の開発」(JPMJCR1765)、JSPS科研費(JP21H04530)の支援を受けたものです。

 

 用語説明 

注1.シンクロトロン放射光:電子を光とほぼ等しい速度まで加速し、電磁石によって進行方向を曲げたときに発生する、指向性が高く強力な光(電磁波)のこと。
注2.圧縮センシング:信号、画像などに内在する疎性(スパース性)を利用し、非常に少数の観測データから高次元信号を復元する手法。
注3.大型放射光施設SPring-8:兵庫県の播磨科学公園都市にある世界最高性能の放射光を生み出す理化学研究所の施設で、利用者支援などは高輝度光科学研究センター(JASRI)が行っている。SPring-8の名前はSuper Photon ring-8GeV(ギガ電子ボルト)に由来。SPring-8では、8 GeVの電子から発生する放射光を用いて、ナノテクノロジー、バイオテクノロジーや産業利用まで幅広い研究が行われている。

 

 論文情報 

“Sub-millisecond 4D X-ray tomography achieved with a multibeam X-ray imaging system”
Xiaoyu Liang, Wolfgang Voegeli, Hiroyuki Kudo, Etsuo Arakawa, Tetsuroh Shirasawa, Kentaro Kajiwara, Tadashi Abukawa, Wataru Yashiro*
*責任著者:東北大学国際放射光イノベーション・スマート研究センター 教授 矢代 航
Applied Physics Express
DOI: 10.35848/1882-0786/ace0f2

 

 関連リンク 

 
 

 問い合わせ先 

【研究に関すること】

東北大学国際放射光イノベーション・スマート研究センター
教授 矢代 航(ヤシロ ワタル)
TEL: 022-217-5184
E-mail: wyashiro@tohoku.ac.jp
 

【報道に関すること】

東北大学多元物質科学研究所 広報情報室(担当:伊藤)
TEL: 022-217-5198
E-mail: press.tagen*grp.tohoku.ac.jp
 
※E-mailは*を@に置き換えてください。

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